遠足で山道を歩いていたら、目の前を歩いていた女子生徒3人のうち1人がふっと消えた。
30年この仕事をしていても、なかなか経験できない強烈なシーンだ。
心臓が止まるかと思った。*1
急いで駆け寄ると、幸い数メートル下の斜面*2にA子はへばりついていた。本人も何があったか理解している様子ではなく、ただ茫然としていた。
まったく怪我もなく、事なきを得てほっとした。
25年以上たっても、くっきり覚えているこの強烈な記憶。
ところが、昨日その当事者と会って驚いた。
この記憶が間違っているというのだ。
私は滑落したのはA子だと記憶していた。
しかしA子が言うには、落ちたのはM子だという。
私にとっては数少ない、鮮明な記憶なのに、主人公(?)の顔がすげ替わっていたとは!?
A子は芸術家肌のおっちょこちょいな子どもで、その山歩きをするという当日もトレッキングシューズでも運動靴でさえもなく、通学用の革靴で現れた。それで滑って落ちたのはA子だと、長い年月の間に記憶が書き変えられていたらしい。
A子が言うには、確かに滑ったのは私だが、私は3人の真ん中にいて、同時に3人ぬかるみで滑った。そして谷側にいたM子が落ちて行っただそうだ。
人の記憶というものは、かくも頼りないものなのだ。