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三角形の合同条件

数学

今,私の勤務している区で使っている○○○○の教科書では三角形の合同条件は次の順に書かれている。

  1. 3辺がそれぞれ等しい三角形は合同である
  2. 2辺とその間の角がそれぞれ等しい三角形は合同である
  3. 1辺とその両端の角がそれぞれ等しい三角形は合同である

数字が3−2−1ときれいな並びなのと,3辺相等が子どもの直感に一致するというのがおそらくこの順を選んだ理由であろう。
この順は数学的には疑問である。
始末の悪いことにこの単元付近で「図形の性質」と同時進行で「論証」についても教えることになっている。ところが「公理」については教えず,合同条件のところで嘘があるから,せっかく数学を選んだのに,イオンを教えずに化学式を教える理科の先生みたいな苦労をすることになるわけである。
「数学的考え方」を教えようとしたら,この3つの合同条件の中で「3辺相等」が異質であることに気づけるように指導したい。図形には「質と量」すなわち「形と大きさ」がある。その具体的数値として「角の大きさと辺の長さ」があるわけだ。「形が等しい」のが相似で記号は∽,「大きさが等しい」が等積で記号は=,「形も大きさも等しい」が合同で記号が≡である。ところが,「3辺相等」は「大きさ」だけの条件で「形も等しい」ことを導き出す。
合同条件を「辺辺辺」「辺角辺」「角辺角」と略記すると,異質さが見えやすいかもしれない。図形は辺-角-辺-角-辺と互い違いになっているのだから,「辺角辺」と「角辺角」の合同条件は自然だし,その証明もほとんど自明である。順に重ねていけばよい。
ところが「辺辺辺」の証明は自明ではない。
普通は次のように証明する。

図で△ABQと△CBQが二等辺三角形なので,∠ABQ=∠PQBかつ∠CBQ=∠RQB
したがって∠ABC=∠PQR
これで2辺夾角相等で合同が証明される。
つまり「3辺相等」の合同条件の証明には「二等辺三角形の底角は等しい」という定理が必要なのである。

中学校の教科書を純真な頃に学んだために,以上のことを信じられないという方がいるかもしれない。そこで権威に頼るためにエウクレイデス*1の「原論」を紐解いてみよう*2

世界の名著 9 ギリシアの科学 (中公バックス)

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↑これが抄訳だが安くてお得だ。アリストテレスヒポクラテスアルキメデスも収録されている。
とても読みにくいのを我慢して斜めに読むとまず見つかるのが

命題四
もし二つの三角形の二辺が二辺にそれぞれ等しく,その等しい二辺に挟まれた角が等しいならば,底辺は底辺に等しく,三角形は三角形に等しく,残りの二角は残りの二角に,すなわち等しい辺に対する角はそれぞれ等しいであろう。

これが教科書の「2辺夾角相等」であろう。続いて

命題五
二等辺三角形の底辺の上にある二角は互いに等しく,等しい辺が延長されるとき,底辺の下の二角は互いに等しいであろう。

この前半部分がどうも「二等辺三角形の底角は等しい」にあたるようです。
そして「三辺相等」は

命題八
もし二つの三角形において,二辺が二辺にそれぞれ等しく,底辺も底辺に等しければ,等しい辺に挟まれた角もまた等しいであろう。

とその後に出てくる。命題八の証明は命題七を用いており,命題七の証明に命題五を使っているという構成になっている。
教科書ではこの単元で「論証」も指導するのだが,「三角形の合同条件」を用いて,「二等辺三角形の底角は等しい」を証明するという構成になっている。
二等辺三角形の底角は等しい」を証明するためには普通補助線を使って合同な三角形を作る。補助線には

  • 頂角の二等分線
  • 頂角から下ろす中線
  • 頂角から下ろす垂線

の3通りが考えられるが,このうち中線を使っての証明は間違いだということである。

実際の授業でこの部分をどう扱うかは,その生徒集団の数学的実力を量りながら,数学の神さまを裏切らない程度に,どうごまかして進めるか考えることにしている。

*1:ユークリッドですね

*2:もちろん日本語訳を